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関西フィル50周年記念コラム~未来の関西フィルへOp.0205

みなさま、こんにちは!

今回は、元アマチュア・オーケストラ出身の事務局員によります“つれづれシリーズ”
「アマチュア・オーケストラ」について、つらつらと書きます

 

【はじめに】

ここでは、「アマチュア・オーケストラ」の良さ、特徴など、プロとの違いも絡めて書いてみたいと思います。

国の芸術文化の懐の深さ、文化の隆盛、心の豊かさの底を支えているのは、
今回テーマの
「アマチュア・オーケストラ」を含めた、そのジャンルを“趣味”として、愛していらっしゃる方々だと思います。そこから、プロの団体へ発展する事もあれば、そのまま歴史を重ねてアマチュアの矜持を体現する団体もあります

プロは勿論ですが、アマチュアも含めて活動しやすい土壌がある、、、それこそが本来の“文化度”の成熟した姿であり、その向こうに、音楽に普段なじみのない方々からの、プロ・アマ含めた音楽そのものへの支持が拡がっていくのが、理想の姿ではないかと思っています

 

【アマオケの歴史】

さて、日本のアマチュア・オーケストラの歴史はプロオケより古く、
音楽科以外の一般人によって結成された最古のアマオケ(アマチュア・オーケストラを略して“アマオケ”と言います)は、

1901年(明治34年)創立の慶應義塾ワグネル・ソサィエティー・オーケストラという大学オケです。(藤岡さんは1956年創部の、高校の方の慶應ワグネルご出身!)
・市民(社会人)による最古のアマオケは、1925年(大正14年)創立の諏訪交響楽団さんです。

[プロオケは…]
・日本最古は、1911年創立の東京フィルハーモニー交響楽団
・世界最古は、1743年創立のライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団

現在、全国にある“アマチュア・オーケストラ”の数は、1,000団体以上あります。盛んですね
日本は、世界有数のアマオケ大国のひとつです。

一団体約50人としても、5万人前後がプレイヤーとして携わっている事になります。東京だけでも500前後のアマオケがあり、圧倒的な数です。第2位の大阪は60団体以上あります。

そのどれもが個性が違い、音楽を始めようとされる皆さんのニーズに合わせて選ぶ事ができます。

プロのオーケストラは、それが職業ですから、一般的な会社と同義で、お給料と生活の為に、仕事をします。(音楽愛がある前提で)本業が“芸術”ですから、そこへの鍛錬は決して怠りません。

しかしアマチュア・オーケストラは、音楽以外の本業のある“音楽愛好家”の集まりです。(それぞれ別の職業のプロの集まり、とも呼べます。)
メンバーは、会社員、公務員、主婦、…ほか、あらゆる職業の人々により構成されていて、
金銭や生活ではなく、トータルすると“音楽への愛(と、人的交流の楽しさ)で繋がっています

オーケストラはよく、小さな“社会”と捉えられます。
アマオケで重視されるのは、どちらかというと“和”だと感じます。全員で演奏会をイチから作っていくので、最低限の協調性は必要とされる要素でしょう。
よって人間関係も大事な部分です(※楽器の技量の方を重視するオケもあります。)
団体の演奏の技量、コンセプトや雰囲気と自分が合うかどうか、も判断の大事なところになってきます。
ある意味ではプロオケ以上に1つ1つの団体の個性が豊かで、団体の種類が多いので、初めてアマオケに入る人は、色々迷う事になると思います

数あるアマオケを探す、便利なサイトがあります。
★アマオケNavi
★オケ専
★コンサートスクエア

などに、たくさんのアマオケが掲載されていますので、
一度こちらを覗いてみて、面白そうなアマオケがあれば、是非聴きに行ってあげてください

【ごく一般的な常設のアマオケの形とは】

月2~4回、土・日あたりで平均4時間ほど練習(主に合奏)し、
半年~1年に1回「定期演奏会」を行います。
(平日夜に練習日を設定しているオケもあり)

曲は、ベートーヴェン、チャイコフスキー、ブラームス等が多いでしょうか。近年は挑戦的なプログラムのアマオケも増えてきました。

入団時の楽器経験は、オケによっては初心者OK~中には上級の経験者を求めるところもありますし、音大卒等専門教育を受けた経歴の人が居る事もあります。
団員数は、平均40~60名程度。年齢層は幅広く、20代~70代くらいまでの人が多いです

大体、弦楽器奏者数が基準に満たずに募集している所が多く、管楽器奏者は埋まりがちです。

 

【アマオケの特徴】

定期演奏会の音楽だけではなく、社会的な繋がり(例えば、チャリティーやボランティア、地域社会のセレモニー機会等による演奏活動、教育など)、生涯学習や、人間交流の場としても、アマオケは素晴らしい力を発揮します。

音楽の知識に関してはプロ並か、ジャンルによってはマニアック過ぎてほかの追随を許さないような方も、一部いらっしゃいます。

シンプルに、とても楽しい趣味です。

愛好家の音楽として和気あいあいと合奏するささやかな喜びを感じる事も出来ますし、ある種、収益やコンディションも考えねばならないプロオケが保守的な選曲になる事もあるのに対して、誰も取り上げた事のない珍しい曲も臆せず挑戦、新しい価値観を提供できる強みもあります。
今日有名な曲の日本初演がアマオケという例も存在し、例えば東京の老舗アマオケ“新交響楽団” さんは、「ショスタコーヴィチ:交響曲第4番」を日本初演しています

そして、半年~1年かけて、じっくりと“定期演奏会の曲”だけに取り組める環境があるため、その演奏は、思い切った表現にも繋がり、時にプロをも上回る“感動”を届ける事すらあること、そして派手にコケる時もある、アマオケはそんな未完成で粗削りな人間くささも魅力なのです

人が肉体を使って表現する音楽は、技術以外にも人間の情念が絡みます。
人間が、それぞれの想いや背景を持ち、一つの曲に向かって全力で挑んだ結果得られる感動の共有は、
技術だけではなく、プロとはまた一味違った、クラシック&演奏会の醍醐味を感じられる事でしょう。高校野球を観るような感動
(入場料も安い!無料の公演もたくさんあります)

 

【アマオケの基盤について】

「市民による自主管理・運営のオケ」、これが最も一般的で、世の中の8~9割がこのタイプでしょう。他には都道府県・行政などが管理支援するタイプや、企業による支援管理、ジュニアオケや大学のサークル等々があります。

市民の自主管理によるオケは明確な母体がないため、自身の情熱が頼り。
練習会場の確保、金銭面、人材の不足など数々の困難があった上に成り立っています。
オケは設立より、運営を“継続”する事が一番大変です。(しみじみ)

 

【常設オケと企画オケについて】

20年くらい前までは、アマオケ=「常設」の市民オーケストラ、名曲系を演奏する、というものが一般的でした。

ところが、その流れがここ20年で変わり、新世代が増えてきて新しい潮流も生まれています。複数の常設市民オケ所属の、何割かの有志が中心でメンバーを集める即席オケ、いわゆる「企画」オケ(一発オケ)が急増します。

「企画オケ」の形は、ある目的のために“一回だけ”の演奏会の名目で楽団を作り、都度団員を集め、演奏会が終わったら解散し、
また機が熟したら再びイチから楽団員を募集し、演奏会をする不定期開催のオケの事です。
文字通り、そのまま解散する事もあります

「企画オケ」は、常設オケのしがらみを超えて、例えば『作曲家“ヴォーン=ウィリアムズ”のみの作品の演奏会をしたい!』、『新作初演を演奏する!』といった、先鋭的で新しい企画が実現しやすく、
ミュージカルや映画音楽、ゲーム音楽を専門に演奏したい!等のニーズに柔軟に対応できる利点などがあり、昨今のオケの形に新風を吹き込んでいます。

筆者も現在は、不定期である仕事の都合上、時折企画系のオケに顔を出してホルンを吹く事があります

 

【アマオケの運営とは】

基本的に楽団運営も、所属メンバーが分担して行います。

オケの演奏会で必要なこと…
・会計
・練習&本番会場予約係、会場打合せ
・楽譜係(レンタルや購入、管理、楽員への配布など)
・楽器係(レンタルや購入、運搬、管理、保管など)
・イベント関係係(合宿など)
・広報、デザイン
・本番の演奏会実行委員(ステージマネージャー、フロアマネージャー、渉外ほか)
・ウェブ関係(HPの運営、Twitterなど)
・人事管理
・録音、録画など
・指揮者、コンマス、トップ、演奏系の会議や選曲、エキストラや指揮者、ソリスト招へいなど
・幹部による運営の方針決め

など、パッと浮かぶだけでも、上記のような内容を、
アマチュア・オーケストラの人々は、楽団への月団費を払って、自発的に行っています。

ね、大変でしょう??
その分アマオケは、成功した時のやり甲斐が凄いのです

プロオケは「楽団事務局」があり、過去の膨大な仕事の蓄積により、事務局も現場も、ある程度は慣例に基き、効率化されています。
アマチュアは上記のほぼ全てをイチから、自分たちの手で行っています。
その情熱には、頭が下がるばかりです。

 

【最後に】

日本を代表する作曲家・指揮者で、アマチュア・オーケストラの育成にも情熱をかけた
芥川也寸志さんの有名な言葉として

「アマチュアこそ、音楽の本道である」

というものがあります。
本質を突いた、素晴らしい言葉だと思います

本来、“アマチュア”とはプロとの対比の意味ではなく、「愛」とか「愛好家の」という意味があるそうです。
優れている、劣っている、そういう比較ばかりが先鋭化すると、
音楽は「専門家だけのもの」となり、敷居だけが高くなってしまうように思います。

技術的な面、プロ演奏家のこれまでのとんでもない努力と時間、覚悟、専門家の“本気”の価値も尊いですし、
「代償を求めず、ただひたすら音楽を愛し、それに没入していく心」が尊いとも考えた、日本を代表する音楽家、芥川氏。

その意味で【音楽はみんなのもの】という言葉も残されていますが、我々も含めて全ての音楽芸術に共通するものとして、改めて皆で大事にしたい部分です。

ぜひ、我々プロオケも、個性豊かなアマオケも、応援してあげて下さい。
そして、それぞれの演奏会に足を運んでみてください

つづきは、いずれ…

それでは、次の”5”が付く日まで。

(参考)
新交響楽団HP、アマチュアオーケストラに乾杯!畑農敏哉著 NTT出版