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  • 2020.7.2(木)
    50周年記念コラム
    50周年記念コラム~未来の関西フィルへ K.0702

     皆さま、こんにちは!
     50周年記念コラム~未来の関西フィルへ K.0702
    今回は、特別契約Vc首席奏者、向井航からのメッセージをお届けします。

     「よく弾いた平成時代の、最後の本番が昨日の関西フィル第300回定期演奏会だった。良い演奏会になって、良かった。
    関フィルに入ってすぐの頃に第200回定期があって、200回かぁ、
    長い歴史があるんだな、と思った。
    200〜300の歴史に関わってきたんだと思うと、感慨深い。」

     2020年、関西フィルハーモニー管弦楽団は創立50周年を迎えた。
    「人生は退屈すれば長く、充実すれば短い」というシラーの言葉があるように、「長い」ということが無条件で尊いとされるわけではないが、
    楽団創立当時からの先輩達は
    「良い時も悪い時もあったけど、乗り越えてきた。これからはお前たちの時代だ」と言って下さる。その言葉は、音楽をより多くの人に届ける貢献を今後も継続し、発展していくことを期待して下さっているのだと、私は理解している。

     2007年、当時は最年少で27歳の時に関西フィルの首席チェロ奏者に就任した私は、今年で40歳になる。
     オーケストラ奏者になってからの13年間という時間は、
    長いような気もするし短いような気もするが、楽団の50年という歴史は、
    生きてる時間が40年弱の私からすると、尊敬の念を抱く長さだ。

     関西フィルに入るまでの私は、クラシックの分野以外にスタジオミュージシャンとしても仕事をしていた。ハンガリーに留学した後、藝大に復学した時からチェリストとして演奏の仕事をするようになった私は、多くの素晴らしい先輩や友人に恵まれ、運良くその世界での仕事の機会を得た。
    自分でもバンドを組んでデビューしたこともあって、
    当時は国内外のロックアーティスト、J-popや演歌、映画のための音楽、
    テレビドラマやCMのための、いわゆる劇伴音楽をレコーディングスタジオで録音する仕事で、都内のスタジオを毎日駆け回っていた。

     Liveやテレビ出演するアーティストの後ろでも演奏し、弱冠20歳そこそこの私が、著名なミュージシャンやアーティストの皆さまと行動を共にさせて頂き、自分も、自分が演奏する音楽で多くの人を幸せにしていると勘違い出来るほど、華々しい世界を沢山見せて頂いた。 

     しかし、新興の音楽のクリエイティブな魅力が大好きでありながらも、
    チェロというクラシック音楽を起源とする楽器を演奏する以上、
    一度はオーケストラに所属して、スケールも歴史も壮大な交響曲やオペラを
    演奏することが、何にも代え難い夢の一つだとも感じていた。

     一般的に「クラシック音楽」と言われるものは、グレゴリオ聖歌を含まないとしても16世紀から、400年以上の歴史があると言える。
    クラシック音楽で使われる楽器の種類は多種多様で、オーケストラでは
    その代表的なものを集めて構成され、演奏されている。

     チェロという楽器も300年以上の歴史があり、かつては
    Basso continuo(通奏低音)として主にリズムとベースラインという役割が
    多かったのだが、古典以降は、立ち位置を低声部に置きながらも
    次第に編成の大型化や楽器の改造も加わり、内声、対旋律、主旋律も演奏するオールマイティな楽器に進化していった。
    チェロ を必要とする曲、チェロの為に書かれた曲がとても沢山存在するので、日々探求、研究していても未だにその魅力と奥深さは計り知れない。

     その300年の歴史の中で、多くのチェロが製作されているので、現在では様々な年代の楽器が使用されている。私の楽器は1928年、イタリアのトリノで製作されたものだそうで、引き算が間違っていなければ今年92歳になる。もちろん0〜300歳以上のものが存在するので、比較的に若いものと言えるかも知れない。
     しかし、チェロをつくる為に使われる木は、少なくとも樹齢100〜200年以上だそうで、つまりこの楽器に使われている木が地球上に生まれてから
    およそ200〜300年以上経つということになる。

     そんなチェロを自分が練習で弾いているときに、なんでうまく弾けないんだ…という局面に幾度となく遭遇する。そういう時はいつも、自分より圧倒的に長い年月を知っている「楽器」に、その答えを教えてもらう事にしている。
    それは即ち、うまく弾けないのは自分なのであって、うまく弾きさえすれば、楽器は素晴らしい音で音楽を奏でてくれる。
     地球に根をはった大木になるまでの長い年月に見てきたもの、感じてきた事、知っている事、楽器となってからの92年間にも、きっと何人もの素晴らしいチェリストが弾いてきたことだろう。何度も素晴らしい音楽家、楽器達とアンサンブルをしてきたことだろう。だから楽器は良い音も、良い弾き方も、良い音楽も全て知っていて、うまく弾けた!と自分で思えた時、楽器が素晴らしい音で歌ってくれた時、
    「そう、その弾き方なら、こんな音が出るよ。」と、教えてくれるのだ。
    そして楽器のこの先の100年の為にも、私が使っている時代に悪い音に
    するわけにはいかないので、少しでもより良い音が出るような弾き方を
    銘肝して弾いている。

     オーケストラも、楽器と似た性質がある。
    良い時間を過ごせば良い音に、まあまあな時間であればまあまあな音になると思うし、進む方向も、その寿命も、関わる人によって大きく変わってくると思う。

     次々と勉強して弾き続けた13年間は、あっという間の短い時間だった気もするが、私が関わった時間もオーケストラにとって少しでも、良い時間であったのだろうかと、自問出来る程度には、長くやってきた気もする。

     50年という時間、多くの音楽家と関わってきたこのオーケストラは、
    少しでも良い音で鳴るためにはどうしたら良いのか、
    低声部の位置から模索を続ける私に、これからもきっと、
    たくさんの事を教えてくれる。

     

     現在、新型コロナウィルスの影響で公演中止があいつぎ、
    音楽業界全体が未曾有の危機に直面しています。
    もうコンサートホールでオーケストラという形態の演奏会をしていくことは
    無理なのではないか、と悲観的に思わざるを得ないような状況が続きますが、多くの応援メッセージや寄付を頂き、深く感謝申し上げます。

     山登りをする人にとって、どの山もそれぞれの魅力やおもしろさがあるそうです。
    関西フィルは数ある山の一つとして、これまでの50年に敬意を払いつつ、これからの50年も、歴史ある「音楽」を多くの人と共有する役割を担う団体で
    あり続けたいと思っています。

    特別契約Vc首席奏者 向井 航